介護従事者が始める理想のシステムづくり
利用者の情報を電子化する流れは、介護の世界でも着実に進みつつある。しかし、介護業界は、特別養護老人ホーム(特養)やデイサービス、訪問介護など多種多様なサービスを抱えているために、一つのデータベース・システムでそれぞれの施設・事業所に対応するのは難しいのも現実だ。そこで求められるのが、各施設・事業所の従事者が自分たちの実情に合わせて理想のシステムに“改造”できることだ。
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土支田創生苑(社会福祉法人「創生」、東京都練馬区)では今、理想のデータベース・システムづくりに向けて試行錯誤している。
定員80人の特養で、認知症対応型を含むデイサービスのほか、障害者支援施設なども運営する。他の特養に比べれば、「中の下くらいのサイズ」(岩城隆昌理事長)だが、それでも手書きやエクセルで利用者のデータを管理するには限界を感じていた。データが増えれば増えるほど、紙では部屋を埋め尽くすし、簡単な表計算ソフトでは見づらくなる。そもそも、職員の中には、コンピュータ(PC)を全く使えない人もいた。
しかし、データベース・システムを導入するとなると高額になる上、具体的なメリットがつかめない。そこで岩城理事長は、地域の介護事業者が集まるIT勉強会に参加。数か月の参加を経て、2010年に導入を決めた。
導入したのは、ファイルメーカー社が提供するデータベースソフトウエア「FileMaker」だった。決め手は、▽自分たちで現場に合ったシステムを構築できる▽これまで作成したデータを引き継げる―などの点だ。さらに、iPhoneや多機能型情報端末「iPad」「iPod touch」などを使えば、画面を触って操作するタッチパネル式で入力できるため、PCのキーボード入力に慣れていない職員でも使いやすい。
■お仕着せでないデータベースを
岩城理事長が参加した勉強会で講師役だったのが、社会福祉法人「東京蒼生会」(東京都東村山市)でIT推進担当の理事を務める西野幸彦氏だ。西野氏は、データベースを導入する際の留意点について、「お仕着せでなく、自分たちでカスタマイズできる必要がある」と指摘する。
その理由として、利用者データの共有がある。利用者の入れ替わりが激しいショートステイなどでは、利用者の毎日のバイタルや食事量、その他の心身の状態を、職員が一つの日誌で共有するには限界があるためだ。
西野氏は、FileMakerの導入により「記入や閲覧を関係者が同時にでき、紙の日誌を使っていたころよりも利用者への目配りがかなり良くなった」と、成果を語る。また特に、介護保険制度が始まる前の“措置時代”から運営している社福では、データベースの導入が求められているという。利用者データをサービス部門ごとに別々に記録していたため、利用者からしてみれば、同じ法人内でサービスを受けているにもかかわらず、部門が変われば“初めての利用者”になってしまう。利用者データの統一は急務となっている。
■経営判断が容易に
西野氏はさらに、FileMakerによるデータベース・システム導入の利点について、「経営にも劇的な効果をもたらす」と語る。
FileMakerの導入により、稼働率を毎日、グラフにして資料化することも可能であり、数年分のデータをまとめることも容易だ。これを簡単な表計算ソフトなどで行おうとすると、操作も手間がかかる上、PCの処理が重くなってしまう。
東京蒼生会での導入時は、思わぬ成果もあった。仕事を家に持ち帰れないために、空き時間を有効活用しようとする職員が増え、「劇的に超過勤務が減った」(西野氏)。しかも、このような事例は、他の社福でも見られるといい、岩城理事長がFileMaker導入に踏み切った理由の一つになった。
■導入には試行錯誤が続く
「一度導入すると、FileMakerなしでは仕事ができなくなる」と、西野氏は成果の大きさを語るものの、まだ理想のシステムには至っていない。導入を進める岩城理事長も、試行錯誤を続けており、「複雑な環境の現場に合わせてシステムをつくるのは容易でない」と、その難しさを認める。
一方で、「利用者がよりよいサービスを受けるのに、データベースの導入は必須。今後、さらにFileMakerを活用して効率化できる部分を効率化して、職員が介護に専念できるようにしたい」と、岩城理事長は意気込んでいる。
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