薬局と医療DX、電子カルテ情報踏まえた服薬指導へ
マイナンバー保険証で進むデジタル変革
電子処方箋の運用が1月26日から開始となり、薬局DX、医療DXが本格的にスタートしました。医療DXは、岸田文雄首相を本部長とする医療DX推進本部により、「全国医療情報プラットフォーム」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」の3本柱で取り組みが進められ、電子カルテ情報の標準化では、薬局からの情報閲覧も前提とされています。薬局にとっての医療DXを見ていきます。
※この記事は「薬局経営NAVI」とのタイアップ企画です
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1 政府がリードする医療DX
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、さまざまな産業分野で取り組みが進められています。データとデジタル技術の活用により、製品、サービス、ビジネスモデルを変革し、さらには、業務や組織の在り方、プロセス、企業の文化・風土までも変革していくものです。
このDXを医療・介護の分野で進めるため、政府は、岸田首相を議長とする経済財政諮問会議が取りまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022、6月7日閣議決定)で、「医療DX推進本部」を設置して、「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」の取り組みを進めることとしました。
医療DXの基盤となる、マイナンバーカードの保険証化としてのオンライン資格確認を、23年4月から医療機関・薬局に対して原則として義務化することも併せて決定されたのです。
骨太方針2022を受け、厚生労働省は9月に「『医療DX令和ビジョン2030』厚生労働省推進チーム」を設置し、「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」への具体的な取り組みを開始しました。
そのため、「電子カルテ・医療情報基盤」タスクフォースと「診療報酬改定DX」タスクフォースを設置しています。
また、10月には、政府の医療DX推進本部が設置され、医療DX推進の工程表を23年3月に策定することを決めました。
さらに、12月に開催された2回目の同推進チームでは、診療報酬改定DXで、診療報酬算定と患者の窓口負担金計算のための全国統一の共通的な電子計算プログラムとしての「共通算定モジュール」の開発を検討すること、また、診療報酬改定時の医療機関や薬局の作業負荷を平準化するため、改定の施行時期の検討が課題に挙げられました。
そうした会議体による検討だけでなく、具体的な取り組みも進められています。オンライン資格確認の23年4月からの義務化に向けた動きは急ピッチで進んでおり、電子処方箋が1月26日から開始となりました。
さらに、「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」のそれぞれの工程表は、政府の医療DX推進本部が3月に示す予定です。次に、これら3本の柱がそれぞれどのような姿を目指すのかを、具体的に見ていきます。
2 薬局から電子カルテ情報が閲覧できる
今後の薬局薬剤師の業務にとって重要な要素になっていくと考えられるのが、「全国医療情報プラットフォーム」と「電子カルテ情報の標準化等」です。
薬局は、全国医療情報プラットフォームの中で、医療提供側の主体として医療機関と共に明確に位置付けられ、今後、プラットフォーム上に掲載される予定のカルテ情報、診療情報提供書、退院時サマリなども、閲覧し共有できるようになるものとして検討が進められています。
23年4月からの原則義務化に向けて普及が進められているオンライン資格確認システムとしてのマイナンバーカードの保険証化では、すでに、医療被保険者情報のほか、レセプトに基づく薬剤情報、診療情報、処方箋情報、また、特定健診情報が、薬局からも閲覧可能となっています。
23年1月からは、電子処方箋が開始され、ひと月遅れのレセプト情報とは違い、発行時点での処方箋情報の閲覧が可能となりました。
全国医療情報プラットフォームでは、それらの情報に加えて、電子カルテ情報の標準化を踏まえたカルテ情報、診療情報提供書、退院時サマリ、また、感染症関連の発生届を全国で共有できる情報としていくことになります。
さらに、自治体が持つ、予防接種に関する予診情報と接種情報、検診情報、介護に関する被保険者情報、介護認定情報、また、介護事業者によるケアプラン、ADLなども加えられていく予定です。
電子カルテ情報として全国医療情報プラットフォームに加えられる項目は、厚労省がこれまでに標準規格を決定している3文書6情報となります。
3文書は、▽診療情報提供書▽退院時サマリ▽検診結果報告書-です。
6情報は、▽傷病名▽アレルギー情報▽感染症情報▽薬剤禁忌情報▽検査情報(救急時に有用な検査、生活習慣病関連の検査)▽処方情報-となっています。
これらのカルテ情報を、薬局も、患者の同意があれば、閲覧できるようになり、それを服薬指導に活用することができるのです。
服薬指導に当たっては、傷病名、アレルギー情報、検査情報などが特に重要な情報になると考えられます。
薬局を医療提供側の主体と位置付けるなどのこれらの方針は、政府の医療DX推進本部が関係行政機関の機動的な連携を図るために設置した医療DX推進本部幹事会が、22年11月の会議で確認しています。
骨太方針2022は、全国医療情報プラットフォームについて、オンライン資格確認システムのネットワークを拡充して、レセプト・特定健診情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテなどの医療(介護を含む)全般にわたる情報について、共有・交換できる全国的なプラットフォームとしました。
電子カルテ情報の標準化等は、全国医療情報プラットフォームの構築に合わせて、標準型電子カルテの検討を進め、また、電子カルテデータを治療の最適化、AIなどの新しい医療技術の開発や創薬のために有効活用することが含まれるとしています。
こうした位置付けを踏まえ、厚労省の「医療DX令和ビジョン2030」推進チームでは、全国医療情報プラットフォームの創設と電子カルテ情報の標準化等の両方を担う「電子カルテ・医療情報基盤」タスクフォースを設置しました。
推進チームは、12月に開催した第2回会議で、電子カルテ情報もマイナンバーカードを保険証とするオンライン資格確認システムのネットワークを活用する方向で検討を進めていることを確認しています。
4月から原則義務化となるオンライン資格確認システムは、電子処方箋の基盤であると同時に、全国医療情報プラットフォームの基盤ともなっていきます。
この電子カルテ情報の標準化については、厚労省は以前から取り組みを進めていました。「健康・医療・介護情報利活用検討会」が20年3月に設置され、「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大及び電子カルテ情報等の標準化」の検討を進めていたのです。
同検討会の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」では、22年5月に「全国的に電子カルテ情報を閲覧可能とするための基盤」についての検討を開始し、その会議の場で、新たにワーキンググループのメンバーに加わった日本薬剤師会の委員が、電子カルテ情報を全国的に閲覧可能とする枠組みの中に薬局が入るかを質問しました。
厚労省は、「医療機関等」の中に薬局が当然入るものとし、薬局が入ることが前提であることを確認しています。
電子カルテ情報を閲覧するための標準化を、当面、3文書6情報から開始することは、同検討会が22年3月の段階で決定していました。
全国医療情報プラットフォームを構築することとした政府の骨太方針2022が取りまとめられたのは6月です。厚労省で検討が進められていた「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大及び電子カルテ情報等の標準化」が、そこに昇華されたものと考えられます。
3 報酬算定・患者負担計算の共通算定モジュールと改定施行時期
診療報酬改定DXについて、骨太方針2022は、デジタル時代に対応した診療報酬とし、改定に関する作業を大幅に効率化して、システムエンジニアの有効活用や費用の低廉化を目指すとしています。これにより、医療保険制度全体の運営コスト削減につなげることを狙います。
診療報酬改定に対応するための作業は、2月上旬の中医協答申、3月上旬の告示で確定した内容変更に対し、4月1日の施行、さらに5月10日の初回請求への対応という流れで、わずか3カ月程度の間に集中しています。
この間の医療機関や薬局、また、システムベンダーの業務負荷を軽減するために、診療報酬算定と患者の窓口負担金の計算を行う全国統一の共通した電子計算プログラムとしての共通算定モジュールの開発を検討しています。
22年度内に、開発の主体と体制、費用負担の在り方を含めた対応方針を検討する予定です。
また、共通算定モジュールは、効率的に開発するため、レセプト電算コードを活用した標準マスタの整備、社会保険診療報酬支払基金が保有する電子点数表などの既存資産の有効活用も検討します。
この共通算定モジュールが開発されたとしても、診療報酬改定時には短期間に作業負荷が集中することに変わりはありません。
その作業負荷を平準化するため、改定の施行時期の検討を進めています。
4 薬局薬剤師業務にもたらすパラダイムシフト
医療DXにより全国医療情報プラットフォームが整備されれば、薬局薬剤師は、電子カルテ情報を踏まえた服薬指導が可能となります。
医療提供体制の中で、薬局薬剤師の果たすべき役割の重要性が増し、大きな転換点を迎えることになるでしょう。
調剤報酬による評価の在り方も、数年後には様変わりしていることが想像できるのではないでしょうか。
医療DXは、薬局薬剤師の業務の在り方、そしてその評価の在り方にパラダイムシフトをもたらすものと捉えておくべきでしょう。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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