薬剤レビュー推進へ、対人業務の質向上で厚労省
医師の指示で実施し、薬物治療を最適化
対人業務のさらなる充実に向け、厚生労働省と日本薬剤師会などが積極的に推進すべき業務として、「薬剤レビュー」が位置付けられました。医師の指示により行うもので、海外では、医師と薬局薬剤師への報酬が設定されています。国内での取り組み事例も積み上げられており、次期診療報酬改定では、評価新設の可能性もありそうです。
※この記事は「薬局経営NAVI」とのタイアップ企画です
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1.「薬剤レビュー」の内容と業務の流れ
「薬剤レビュー」は、厚労省の「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」のとりまとめに盛り込まれたものです。
「患者固有の情報を収集し(ASK)、薬物治療に関連する問題を分析及び特定し(ASSESS)、医師や患者に情報を伝達する(ADVISE)、体系的なプロセス」とされています。
「患者にとって必要な医薬品を検討し、それらの有効性、安全性を最大限に高め、患者の健康状態を改善することにつながる。体系的かつ詳細な薬剤レビューの実施は、患者の医薬品使用の安全性を一層高めるとともに、薬剤師の専門性を活かした対人業務の資質を向上させる」として、厚労省と日本薬剤師会などに、薬剤レビューの推進に向けた方策を積極的に検討すべきと提言しました。
WGの議論では、カナダやオーストラリア、英国、ニュージーランド、スペイン、オランダ、米国など、海外では多くの国で実施されていることが紹介されました。
特にオーストラリアの事例が取り上げられ、薬剤レビューは、在宅患者や長期療養施設の患者を対象に、医師の指示によって、薬剤師が患者に会い、薬物療法を最適化することを目的に、薬剤管理の必要性を検討し、他の医療従事者にも相談して、必要であれば医師に薬物治療の変更を提案するものと紹介されました。
患者の状態や治療計画の変更などにより投薬過誤のリスクのある患者については、薬剤関連の被害を防ぐことにもなります。
薬剤レビューの目的は、▽生活の質と健康上のアウトカムの向上▽患者の服用薬の調整支援▽安全で有効かつ適切な薬物治療の実現▽薬剤に関する知識と理解の向上▽医師と協同した薬物治療の最適化-とされます。
対象患者は、▽5種類以上の薬剤を常用▽併疾患が3種類以上▽過去3カ月以内に退院などで薬剤投与レジメンが大幅に変更▽治療域が狭い薬剤を服用または特別なモニタリングが必要▽副作用を示唆する症状がある▽複数の医師の診察を受けている▽その他必要とされる患者-が挙げられています。
実施する薬剤師は、薬剤レビュー認定薬剤師の資格を持っていることが必要で、その資格基準は、▽薬剤レビューのトレーニングワークショップに参加▽多肢選択問題(40問)に合格(合格点75%、3年ごと更新)▽4つのケーススタディ(在宅2、長期療養施設2)に合格▽専門研修を毎年60単位取得-となっています。
認定薬剤師の所属先は、薬局と、そのほかに、薬局の要請に応じて薬剤レビューを実施するフリーの認定薬剤師、また、薬剤レビューの提供を専門に行う企業に雇用されている認定薬剤師という3形態があります。
オーストラリアの薬剤レビューに関する報酬は、医師については認定薬剤師を紹介することに対する報酬があり、認定薬剤師には薬剤レビューの報酬と最初の面接から1-9カ月後に2回のフォローアップレビューの実施が可能でその報酬も1回目と2回目のそれぞれにあります。
2.上田薬剤師会10年の取り組み、全国にも広がり
オーストラリアのケースを中心に薬剤レビューの実際をWGで紹介したのは、長野県の上田薬剤師会理事の飯島裕也氏で、同薬剤師会では厚労省の補助金も得て国内で10年前から毎年薬剤レビューのワークショップを開催してきました。
ワークショップは、オーストラリアの薬剤レビュー専門の薬剤師を招聘して実施しており、全国の薬剤師会に広報して行っているため、北海道から鹿児島まで、多くの薬剤師が参加しています。
活動の広がりにもつながっています。神奈川県の小田原薬剤師会や岐阜県薬剤師会は、ワークショップで得たものを持ち帰って取り組みを進めており、また、参加した個々の薬剤師がそれぞれの薬局で他のスタッフと共有しながら日々の業務に生かしている例もあると紹介しました。
これまでの10回のワークショップのうち4回は厚労省の補助金がありましたが、それ以外は上田薬剤師会が自主的な取り組みとして開催してきたものです。飯島氏は、「この内容が薬剤師として生きる道、一番大事な部分と感じてやってきた」としています。
3.薬剤レビューの実際
ここで、薬剤レビューの実際を見ていきましょう。上田薬剤師会が取り組んでいる薬剤レビューの流れです。
最初は「ASK」、「情報収集」です。情報源は、薬局の記録、患者と家族などの介護者、医師および他の医療従事者、医療機関や介護施設の文書記録などです。
薬物治療に関する問題を特定するために必要なことが、次の5項目です。
(1)服用している薬剤、サプリメントと、それらに関する患者の知識(管理方法を含む)
(2)治療目標、コントロール状況、アドヒアランスに影響を与える項目
(3)環境と生活習慣(家庭環境)、日常生活の活動/食事、飲食、喫煙/身体及び社会活動
(4)患者の懸念事項と患者自身の現在の対処方法、患者からの質問
(5)その他、疾病特異的な事項
上田薬剤師会での実情は、患者あるいは地域のネットワークから得るという状況で、この情報収集にかなりの困難さを感じています。
そのため、今後のオンライン資格確認の普及に期待を寄せています。オンラインで、患者の薬歴情報と共に特定健診の情報も得ることができるようになるからです。「情報が多くないと、薬剤レビューにつながらない」ということです。
次は「ASSESS」で、「問題の分析と特定」です。下に示したように、ステップ1から5までありますが、ステップ5で終わりではなく、また1に戻って、サイクルとして回していきます。
ステップ1:患者の治療目標を確認
ステップ2:不適切や不足している薬剤がないかを分析
ステップ3:各薬剤のリスクやベネフィットを考察
ステップ4:新たな薬物治療の提案の理由を明確にし、薬物治療計画を立案
ステップ5:どのような症状と薬物にどのようなモニタリングが必要か検討
このASSESSが「薬剤師としての真骨頂の業務」だとされています。ステップ4の新たな薬物治療の提案は、考察の結果として必要であればというもので、医師に提出するためのレポートを作成。さらに、ステップ5で、提案により薬物治療が変更になった場合も含めて、モニタリングの必要性を検討し実施していきます。
このASSESSのサイクルを継続して回すことで患者をフォローし、その患者の状態を継続して医師に報告していくことが重要だとされます。
3番目の「ADVISE」は、「治療を記録し、患者・介護者と医師に情報を伝達」します。ASSESSのステップ4で新たな薬物治療計画を立案した場合に、どのように対応するかを文書にまとめ、患者・介護者と医師など関係者に伝えるものです。
この薬剤レビューの実施には、各段階で相当の時間を要し、多くの作業をこなす必要がありますが、飯島氏は、自動調剤マシンを導入し、調剤補助員も入れて業務の効率化を図っているということです。
4.薬剤レビューの成果と厚労省の取り組み
10年にわたって薬剤レビューに取り組んできた上田薬剤師会では、薬剤師から医師に伝える服薬情報提供書の質が高くなっていると、飯島氏は実感しています。
また、医師との信頼関係もより深まっています。医師の側から、新しいガイドラインや海外での事例などの情報が、薬局に提供されるという関係性までできています。
飯島氏は、「薬剤師としての専門的な知識を活用して、患者に薬を渡すだけでなく、医師と協同しながらクリエイティブな業務に変換していくことが、やりがいにつながっている」としています。
こうした薬剤レビューは、今後、かかりつけ薬剤師であれば取り組むべき業務とされていく可能性がありそうです。
ただし、そうだとしても、診療報酬による政策誘導だけでは、質の向上にはつながらないため、継続した研修が必要だとされます。
WGのとりまとめは、「薬剤師の専門性を活かした対人業務の質を向上させる」として、薬剤レビューの推進に向けた方策を積極的に検討すべきと、厚労省に提言しました。
厚労省は、とりまとめを受け、各課題についての具体的な取り組みを進めることとしています。
次回の診療報酬改定では、調剤報酬上の新たな対人業務として、薬剤レビューへの取り組みに対する評価点数の新設も予想されます。必要な研修を受けていることが要件となるでしょう。
また、医師による指示が起点となるため、医師への新点数も併せて設定されると考えられます。
薬剤レビューにより、医師と薬剤師、医療機関と薬局との連携体制は、より深い新たな段階に入っていくことになるでしょう。
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