電子処方箋の受け入れ体制作り、運用開始は目前
オンライン資格確認導入とHPKI取得が必須
政府は、電子処方箋を2023年1月から運用開始し、24年度内におおむね全ての医療機関と薬局で導入することを目標としています。医療機関は、処方箋を紙に印刷することなく電子的に登録し、登録された電子処方箋のアクセスコードと確認番号を患者に交付。患者がそれらを薬局に提示すると、薬局は登録された電子処方箋の送信を受けて調剤します。電子処方箋システム導入のため、医療機関と薬局への補助金も予算化されています。
※この記事は「薬局経営NAVI」とのタイアップ企画です
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1.電子処方箋発行から薬剤交付までの流れ
電子処方箋の運用開始は目前に迫っています。厚生労働省は、秋口からモデル事業を実施して運用の改善を行い、医療機関や薬局の使いやすさを高めて、導入の促進を図ることとしています。
この電子処方箋とは、どのような仕組みで運用されるのでしょうか。
電子処方箋であってもこれまで同様に、患者は自分の意思で選択した薬局に処方箋を持ち込んで調剤を受けるフリーアクセスと、服用する薬剤を知ることができるという、処方箋としての役割は担保されなくてはなりません。情報システムの安全性も確保されることが必要です。
情報システムには、電子メールやSNSもありますが、中継する複数のメールサーバー間の通信品質やセキュリティーレベルにばらつきがあり、送信元や送信先を偽装する「なりすまし」や、データの盗聴・改ざん、通信経路への侵入や妨害などを防ぐことが困難なため、これらは採用しません。
電子処方箋は、マイナンバーカードを健康保険証として活用するオンライン資格確認のシステムを基盤とします。そのため、同システムを運用している社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会に電子処方箋サーバーを設置して、電子処方箋の管理・運営を行う「電子処方箋管理サービス」を構築して運用します。
電子処方箋の発行から、薬局が受け付けて調剤し、患者に薬剤を交付して、調剤済みの電子処方箋を管理・保存するまでの流れは、次のようになります=図1=。
(1)医療機関は、患者に電子処方箋交付の希望、患者が調剤を受けようとする薬局が電子処方箋に対応していることを確認。その際、特定の薬局に誘導することがないように留意。
(2)医師は、患者を診察して電子処方箋標準フォーマットに基づいた電子処方箋を作成し、電子処方箋管理サービスに「アクセスコード」と、患者本人であることを確認するための「確認番号」の発行を要求。確認番号は、マイナンバーカードや被保険者証の個人番号化された被保険者記号・番号を使用することも可。
(3)医師は、電子処方箋に電子署名(HPKI)とタイムスタンプを付与し、医療機関は、電子処方箋を電子処方箋管理サービスに送信。
(4)電子処方箋管理サービスは、アクセスコードをキーにして、受信した電子処方箋を登録。
(5)医療機関は、患者にアクセスコードと確認番号を交付。併せて、患者が自身の処方情報を容易に確認できるようにするため、患者のスマートフォンなどに処方情報を表示させるなどが考えられる。
(6)患者は、薬局にアクセスコードと確認番号を提示。確認番号を紛失した場合は、マイナンバーカードや被保険者記号・番号で患者本人と確認することも可。
(7)薬局は、アクセスコードと確認番号で、電子処方箋管理サービスに電子処方箋を要求。
(8)電子処方箋管理サービスは、アクセスコードと確認番号が対応していることを確認して、要求された電子処方箋を「調剤中」とし、電子処方箋を薬局に送信。
(9)薬局の薬剤師は、受信した電子処方箋に基づき必要に応じて医師に対し処方内容の照会を行った上で調剤し、患者に服薬指導の上、薬剤を交付。
(10)薬局の薬剤師は、電子処方箋標準フォーマットに基づき、調剤結果を作成してHPKIとタイムスタンプを付与。これにより、電子処方箋は、「調剤済みの電子処方箋」となる。
(11)薬局は、「調剤済みの電子処方箋」を適切に管理・保存。
(12)薬局は、調剤結果と、調剤の元となった電子処方箋のアクセスコードを、電子処方箋管理サービスに送信。
(13)電子処方箋管理サービスは、薬局から送られた電子処方箋のアクセスコードで医療機関を特定し、その医療機関からあらかじめ指定された方法(電子的方法またはFAX)で、調剤結果を送信。
さらに、電子版お薬手帳を利用する場合には、薬局は、「(12)調剤の元となった電子処方箋のアクセスコードを、電子処方箋管理サービスに送信」の後に、「調剤結果などを基に別途作成した調剤情報を、患者が希望する電子版お薬手帳運営主体に登録するよう、電子処方箋管理サービスに依頼」「服薬の注意事項など、調剤情報以外に電子版お薬手帳に登録する情報を患者に交付」という作業が加わります。
電子版お薬手帳運営主体と電子処方箋管理サービスとの連携方法などは、別途検討が必要とされています。
2.必須要件のオンライン資格確認導入、23年4月から義務化
電子処方箋は、オンライン資格確認のシステムを基盤とするため、オンライン資格確認を導入していることが大前提となります=図2=。
オンライン資格確認は、厚労省が全国の医療機関、薬局に無償で提供する顔認証付きカードリーダーを使い、患者のマイナンバーカードの顔写真データをICチップから読み取り、その顔写真データと、窓口で撮影した「本人の顔写真」とを照合して、本人確認を行うシステムです。
同時に、患者の直近の加入医療保険や自己負担限度額などの資格情報が確認できるため、医療機関、薬局にとっては、期限切れ保険証による過誤請求や、手入力などの事務コストが削減できます。
オンライン資格確認システムは、21年度から導入が開始され、22年度中におおむね全ての医療機関、薬局での導入が目標とされていましたが、政府は骨太方針2022で、23年4月から原則として義務化するとしました。
病院と薬局の導入は進んでおり、顔認証付きカードリーダーの申し込みは、7月3日時点で、病院は全施設8,199の80.2%、薬局は同6万1,183の83.6%に達しました。
運用開始施設は、病院41.0%、薬局42.7%と、まだ半数に届いていませんが、23年4月からの義務化に対応可能と考えられます。
一方、医科診療所と歯科診療所の導入は遅れています。カードリーダーの申し込みが、医科は全施設8万9,669の48.3%、歯科は同7万689の51.3%と、まだ半数程度。運用開始施設は、医科16.5%、歯科16.4%です。
3.電子処方箋導入の数値目標、特例補助も
電子処方箋の導入に向け、厚労省は数値目標を設定しました。オンライン資格確認システムの導入施設に対する割合で、▽23年3月末時点で7割程度▽23年度内(24年3月末まで)に9割程度▽24年度内(25年3月末まで)におおむね全ての医療機関と薬局-の3段階です。
補助金も用意しており、HPKIカードなどのICカードリーダーの導入、レセプトコンピューターや電子カルテシステムなどの改修、医療機関職員への実地指導などが対象です。
施設の類型ごとに事業額を算定し、補助率と補助額上限を設定しており、▽200床以上の大病院は事業額486.6万円の4分の1で上限121.7万円▽その他の病院は事業額325.9万円の4分の1で上限81.5万円▽グループで処方箋受付が月4万回以上の大型チェーン薬局は事業額38.7万円の5分の1で上限7.7万円▽診療所とその他の薬局は事業額38.7万円の3分の1で上限12.9万円-です=図3=。
ただし、早期導入を促すため、23年3月31日までに導入した場合には、特例補助を設定しました。補助率と上限額を上積みし、▽大病院は補助率3分の1で上限162.2万円▽その他の病院は3分の1で上限108.6万円▽大型チェーン薬局は4分の1で上限9.7万円▽診療所とその他の薬局は2分の1で上限19.4万円-です。
4.電子署名のHPKI取得
電子処方箋では、医師と薬剤師は、電子署名をすることが必要になります。運用開始の23年1月時点で使用可能な電子署名は、HPKIとされており、HPKIカードを事前に取得しておくことが必要です。
HPKIは、厚労省が認めた電子証明書で、医師、薬剤師、看護師など保健医療福祉分野の27種類の国家資格などを電子的に認証します。
HPKIカードの発行は、日本薬剤師会認証局、日本医師会電子認証センター、医療情報システム開発センターが行っています。
ただ、日本薬剤師会認証局は、申請の受け付けを停止中で、23年1月の電子処方箋運用開始に向け、多数の申請に対応するための体制再構築を行っています。
厚労省の数値目標から、22年度末で全薬局の7割、4万2,000薬局が対象となるため、1薬局当たり2名の薬剤師がHPKIを取得できる8万4,000枚の発行を目標としています。
5.電子処方箋のメリット
電子処方箋は、地域の医療機関、薬局間の情報共有を促進させ、患者に最適な薬物療法を提供し、患者自身が服薬などの情報を電子的に管理して健康増進への活用にもつながるとされます。
具体的には、医療機関、薬局では、▽医療機関・薬局間の情報共有が進み、医薬品の相互作用やアレルギー情報の管理が可能となり、国民の医薬品使用の安全性確保に資する▽医療機関は紙の処方箋の印刷コストが削減され、偽造や再利用を防止▽薬局から医療機関への処方内容の照会の結果などの伝達、先発品から後発品に変更した際の伝達が容易になり、医療機関では患者情報のシステムへの反映が容易になる-などが挙げられています。
患者や家族には、▽薬局は調剤した情報を患者に電子的に提供し、患者は調剤された情報を自身で電子的に保存・蓄積して服薬情報の履歴を管理できる▽電子版お薬手帳と連携し、患者が保存・蓄積した調剤情報を他の医療機関などに提示することが紙媒体よりも容易になる-などとされています。
今後の調剤報酬の在り方としても、こうしたメリットを生かして、対人業務評価の充実が図られていくことになるでしょう。
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