検査説明全てロボットが対応、看護師の業務効率向上へ
【病院の未来】神奈川県ロボット実装支援からの展望(上)
神奈川県とNTTデータ経営研究所、CBホールディングスは28日、「働き方改革を実現する病院DX~神奈川県『新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業報告』」と題したオンラインセミナーを開催します。医療業界でもDXへの関心が高まる一方、「導入したいが、何から始めればいいのか分からない」といった声も少なくありません。セミナーでは、鎌倉市・湘南鎌倉総合病院での実装事業で得られた知見などを踏まえ、県が作成したロボット導入の「手順書」のポイントをNTTデータ経営研究所の吉原理人氏が説明。DX導入に二の足を踏む病院はもちろん、ロボットと共存する未来の自院の姿も展望できます。また、足元のDX化の状況を、東日本税理士法人代表の長英一郎氏が解説。さらに、同事業の運営を統括したNTTデータ経営研究所の清水祐一郎氏がモデレータを務め、長氏と事業の舞台となった同病院・事務長の芦原教之氏をスピーカーに招いたパネルディスカッションでは、実装事業での現場職員の反応などの本音トークにも迫ります。
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湘南鎌倉総合病院では、あえて“非臨床”分野に絞って実施したのも特徴です。このため、病院規模にかかわらず、それぞれの病院が自院の状況に応じたDX化へのヒントを探ることができます。
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CBnewsでは、28日開催のセミナーの理解をより深めてもらうため、伴走企画「【病院の未来】神奈川県ロボット実装支援からの展望」を3回(上中下)連載します。
1回目(上)は、ロボットを導入する上で、病院経営層などが最も関心のあるテーマの1つである「業務効率」を、実装事業の結果から紹介します。
湘南鎌倉総合病院では非臨床分野のロボット導入実証が行われました
同病院では、2021年11月から22年1月まで、「案内・誘導・コミュニケーション」「搬送」「清掃」にターゲットを絞った5種類のロボット導入実証が行われました。病院内のメッセンジャーが行っている搬送業務や、看護師が患者・その家族に対して行う入退院説明、事務職員が対応する外来患者への病棟内の道案内、外部事業者へ委託している病棟内の清掃業務…。こうした業務をロボットが担った際の効果や導入する際の病院での課題などを検証しました。
同病院内での実装事業の様子は、CBnewsで「病棟内での説明、移動… ロボットは“バディ”になれるか」「CS向上も期待、人手不足対応だけでないロボットの力」にて詳しく報道していますので、ご参照ください。
いずれの業務も、今後の高齢化や人口減少による人材不足が予想されています。その上、24年4月から本格化する「医師の働き方改革」によるタスクシフト・タスクシェアの推進に合わせて、医療従事者の業務効率の向上も待ったなしです。
今回の事業では、看護師が、患者・その家族に行う入退院説明、検査説明にロボットを活用。“看護師の働き方改革”によるタスクシフト・タスクシェアを「入退院説明ロボット」に託しました。看護部の中でロボットは、「てみ子ちゃん」と、マスコットのようにかわいがられ、同僚として紹介する看護師もいました。
入退院説明ロボットは看護師の同僚
■ロボットからの入院説明、患者の8割が「分かりやすい」
そんな「てみ子」のお仕事ぶりは、どうだったのでしょうか。
仕事は、(1)入院説明(2)検査説明(3)退院アンケート-の3つ。普段はナースステーションの一角に常駐。患者・その家族への入退院説明などがあると説明場所まで自律移動し、入退院説明などを看護師に代わって行うという優れモノです。説明などが終わると、再び常駐場所へと戻っていきます。ロボットの顔部分はタブレット端末を装着しており、その端末画面から流れる動画を患者・その家族が閲覧し、説明を受けるというものです。
シンプルな運用方法(画像提供=NTTデータ経営研究所)
21年11月29日から12月5日までの1週間の入院説明21件のうち7件を担当しました。仕事件数の割合にすると、これまで全て看護師が対応していた入院説明業務を3割減らしたということです。検査説明は入院説明に比べて全体の数は少ないものの、6件全てに「てみ子」が対応しました。看護師の検査説明に関する仕事量の削減割合は100%でした。
入院説明業務の3割をロボットが担いました(同)
ロボットからの説明について患者の受け止めは-。ロボットによる誘導と入院説明を受けた患者15人のうち、「分かりやすかった」と回答したのは12人。「どちらとも言えない」は2人、「分かりにくかった」としたのは1人でした。8割の患者は、「てみ子」を評価していました。
ただ、「なるほど。ならばロボットを入れよう」と考えるのはまだまだ早いようです。ロボットが行った入院説明について、人とロボットのどちらがいいかを尋ねると、15人中8人が「人の方がよい」としました。さらに、その理由を聞くと、8人のうち半数の患者が「気軽に質問しやすい」と答えました。ほかにも3人は「安心感がある」ことを、人の方がよいとの理由に挙げていました。NTTデータ経営研究所の清水氏は「医療現場では、人同士のコミュニケーションをゼロにすることはできないと考えています。入院説明や検査説明を100%ロボット化するのではなく、ロボットが担うべき説明(例えば、同じことを全ての患者に必ず説明しなければならない定型的な内容など)と人による説明との両者を生かしながらロボットを活用することが肝要であることが改めて明らかになったのではないでしょうか」と分析しています。
■見えてきた 病棟内にロボットがいる光景
しかし、今は人の説明の方がいいと答えている患者も含めて、将来的には、こうした説明業務はロボットに置き換えることができると感じています。「てみ子」から説明を受けた15人の患者の中で、将来的(5年程度以内)に、誘導と入院説明をロボットに置き換えることが可能と答えたのは10人と7割に迫っていました。「できるとは思わない」と答えたのはわずか1人でした。患者の目にもロボットと人が共存する病院の姿が、おぼろげですが見えてきているようです。
手順書ではロボット導入のイロハが分かりやすく説明されています
こうしたロボット導入による効果などは、神奈川県産業振興課が今年3月にまとめた「令和3年度新型コロナウイルス感染症対策 ロボット実装事業に係るロボット等プロジェクト ロボット等導入手順書」に盛り込まれています。導入を検討する際の組織内での進め方や注意点なども丁寧に示されています。セミナーで、手順書のポイントを説明するNTTデータ経営研究所の吉原氏は、こう強調します。「この手順書通りに検討を進めていけば、ロボット導入は難しくありません」。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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