診療報酬本体「躊躇なく引き下げ」提言、財政審
医療費の高止まり指摘、「プラス改定続き」
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が12月3日、2022年度の政府予算編成に関する建議(意見書)をまとめ、榊原定征会長が鈴木俊一財務相に手渡しました。2000年以降の医療費の高止まりを指摘し、ほぼ4カ月後に迫った次の診療報酬改定で、技術やサービスへの評価に当たる「本体」部分を躊躇なく引き下げるよう求める内容です。薬局関連では、かかりつけ以外の薬局を利用する場合の負担増の検討なども提言し、国の政策にどれだけ反映されるかが焦点です。22年度予算編成に向けた政府の動きを整理しました。
※※この記事は「薬局経営NAVI」とのタイアップ企画です。
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鈴木財務相(右から5番目)に建議を手渡す財政審の榊原会長
財務省提供
1.「かかりつけ以外の薬局利用に負担増」の検討提案
財政審の意見書では、22年度政府予算案の編成に向けた課題を分野ごとに整理し、「社会保障」を真っ先に取り上げています。医療に関してはまず、この年の診療報酬改定に照準を当てました。高齢化に加え、本体のプラス改定が続いた結果、2000年から18年にかけて医療費が高止まりした状況を問題視しています(図1)。
この間の診療報酬改定で本体部分を仮に平均で0.8%引き下げたとしても、高齢化による市場拡大は維持されるはずだったのに、実際は本体プラス改定を続けてきたため、医療費の高止まりがもたらされたという主張です。財政審は、医療費適正化はマイナス改定を続けないと「到底図れない」と強調しました。
図1 診療報酬本体改定と医療費の関係
出典:2022年度予算の編成等に関する建議(2021年12月3日)
医療費の適正化を強く求める背景には、都市部を中心に2022年から加速する高齢化があります。その上、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で20年度に補正予算を3回組んで支出が跳ね上がるなど、国の財政は悪化しました。
榊原会長は3日、鈴木財務相に意見書を手渡した後、省内で記者会見し、社会保障の給付と負担のアンバランスを是正して制度の持続可能性を高め、現役世代の将来不安を払拭する必要性を強調しました。
今回の意見書には、「かかりつけ医」の制度化や、入院の診療報酬を全包括する「DRG/PPF」の導入など大掛かりな医療改革が入りました。そのうち「かかりつけ医」に関しては、自分の「かかりつけ医」以外を受診する患者から定額負担を求める仕組みにすべきだとしています。
一方、薬局関連のメニューは、かかりつけ薬局への報酬や「同一敷地内薬局」の調剤基本料、後発医薬品調剤体制加算の見直しのほか、リフィル処方の導入など。
かかりつけ薬局に関しては、地域支援体制加算の実績要件と「地域連携薬局」の要件の整合性が不明確なことを指摘しました。地域連携薬局は、薬局認定制度の施行に伴い8月に誕生しました。「患者のための薬局ビジョン」の中で厚生労働省が打ち出した「かかりつけ薬剤師・薬局機能」の担い手とされていて、財政審は、制度と調剤報酬の評価とをリンクさせ、かかりつけ薬局・薬剤師機能の発揮を促すのが望ましいとしています。
さらに、「かかりつけ医」以外を受診する場合の定額負担の導入に合わせ、かかりつけ薬局・薬剤師以外が処方箋を受け付ける際の負担の在り方も「検討を深めるべき」だと提言しました。
特定の医療機関からの処方箋の集中率が著しく高い薬局や、医療機関と同じ敷地にある、いわゆる「同一敷地内薬局」に対しては、「薬局・薬剤師のあるべき姿とは異なる」と強くけん制し、調剤基本料の引き締めを着実に進めるよう求めました。
2. リフィル処方「ニーズ増の時機逸することなく」
一方、後発医薬品調剤体制加算の見直しやリフィル制度の導入は、財政審が5月にまとめた財政健全化への意見書にも盛り込まれ、政府の骨太方針2021にそろって反映されました。
後発医薬品調剤体制加算について、5月の意見書では、この加算の費用対効果の低さなどを指摘し、めりはりを利かせた減算中心の評価体系への組み替えを求めていました。これに対して今回は、後発薬を調剤する割合が低い(4割以下)薬局の調剤基本料を減算するペナルティーの大幅な対象拡大を主張し、加算に関しては「廃止を含めた見直し」に踏み込みました。
後発薬の調剤割合が低い薬局へのペナルティーは現在、調剤基本料を2点減算する仕組みです。財務省の調べでは、20年7月現在、全国の5万7,284の薬局の73.9%が後発医薬品調剤体制加算を届け出ていましたが、調剤基本料の減算ペナルティーが適用されているのは0.3%にすぎません(図2)。財務省では、医療費の削減効果は月200万円ほどにとどまるとしています(表)。
図2 後発医薬品調剤体制加算の取得状況
出典:2022年度予算の編成等に関する建議(2021年12月3日)を基に作成
表 後発医薬品調剤体制加算と算定総額
※「2020年社会医療診療行為別統計」を用いて推計
出典:2022年度予算の編成等に関する建議(2021年12月3日)を基に作成
一方、リフィル処方箋は一定期間に反復利用できる処方箋のことで、それを導入すると患者さんの通院負担を軽減できるとされています。財政審は今回、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でリフィル処方へのニーズが増した上、地域連携薬局が制度化され、リフィル処方導入の環境は整いつつあるとし、「時機を逸することなく導入すべき」だと求めました。
さらに、かかりつけ薬剤師が処方医と情報連携しながら服薬管理を行い、必要に応じて受診勧奨する仕組みも提言しました。リフィル処方は、22年度の診療報酬改定に向けて中央社会保険医療協議会が諸外国の制度も参考に、導入の是非を議論しています。
日本薬剤師会はリフィル制度とよく似た「再使用可能処方箋」の導入を提言していますが、日本医師会は、リフィル制度が「疾病管理の質を下げかねない」と慎重な検討を求めていて、調整が難航しそうです。
3.過去には2%台半ば以上の全体マイナス提言
財政審の提言が全て実現すれば薬局経営は様変わりしそうですが、これらがそのまま国の政策になるとは限りません。
財政審では、翌年度の予算編成に向けた意見書を例年11月下旬ごろ取りまとめていて、診療報酬のマイナス改定を提言するのは今回が初めてではありません。19年11月の意見書では、国民の負担を抑えて医療保険制度の持続可能性を確保するため、20年度には診療報酬全体で2%台半ば以上のマイナス改定にすべきだと主張していました。この数字は、18年度診療報酬改定に向けた提言と同じです。
これに対して20年度の実際の改定率は、診療報酬本体がプラス0.55%、薬価・材料価格が1.01%のマイナスでした。それらを合わせた全体でのマイナス改定が実現しましたが、下げ幅は0.46%。2%台半ば以上には遠く及びませんでした。
また、この時の意見書では、対物業務への評価とされる調剤料について、剤数や投与日数に比例して点数が高くなる仕組みを見直し、「大胆に縮減すべき」だと主張しました。
内服薬の調剤料は当時、投与日数「1-7日分」で1日5点ずつ、「8-14日分」では4点ずつ高くなるように設定されていましたが、20年度の改定で厚労省は、「1-7日分」を28点、「8-14日分」を55点にそれぞれ統一しました。
それに伴い、現在は「1-7日分」から「31日分-」までの5段階で定額の点数が設定されています。20年度には、そのうち「15-21日分」と「22-30日分」の点数が64点(3点減)、77点(1点減)にそれぞれ引き下げられましたが、「31日分-」は86点に据え置かれました。
厚労省は、「調剤技術料」全体の5割以上を占める調剤料を見直すことで、薬局経営に影響が及ぶ可能性を指摘していた経緯があり、「22-30日分」の引き下げは18年度(2点)より小幅でした。20年度の一連の見直しを、財政審が求めた大胆な縮減とするかは評価が分かれそうです。
4.日医「躊躇なく引き上げを」、予算編成詰めの段階
診療報酬改定を含め、22年度予算案の編成に向けた政府内の調整が詰めの段階に入りました。政府は、22年度の社会保障費の自然増に夏の概算要求の段階で6,600億円を見込んでいました。予算案でそれを高齢化相当分に収めることにしていて、財務省が政策の査定を進めています。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響がない20年度の当初予算を見ると、厚労省は、「薬剤師・薬局の機能強化、医薬品等の提供体制の確保」のための経費として、前年度予算比1億1,000万円増の4億1,700万円を要求していましたが、年末の予算案では1億7,300万円と半分以下に圧縮されました。
22年度予算の概算要求では、「次世代型お薬手帳」の活用推進など電子処方箋管理サービスの円滑な導入の経費に約10億円を新規計上しましたが、どうなるでしょうか。
診療報酬に関しては政府・与党内の調整がいつも難航し、もう2年置きの風物詩のようになっています。意見書の取りまとめに先立ち、日医の中川俊男会長は11月17日の定例記者会見で、地域の医療提供体制がコロナ禍で厳しい状況にあることを指摘し、「躊躇なくプラス改定にすべきだ」と財務省を早速けん制しました。
20年度の診療報酬の改定率は、前年12月17日の閣僚折衝で決着しました。
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