人事評価制度を導入したい薬局経営者の相談事例(1)
まずはどのような点に注意したらよいか?
■導入を検討する経営者の背景とニーズ
薬局経営者から「人事評価制度の導入を検討しているが、どのような点に注意したらよいか?」との相談を受けました。2020年を振り返ってみると、薬局経営者の悩みが大きく変わったと感じます。人材不足による採用活動が一段落し、採用後の「人事評価制度導入」のニーズが増えてきました。その理由は主に3点に集約されます。
【関連記事】
1つ目は、調剤報酬改定やコロナ禍による収益低下を背景とした、人件費の適切な再分配が求められていることです。対物から対人へ業務の評価が変わっていく流れの中、調剤業務のみを行う薬剤師の評価や報酬を抑制したい、という考えがあります。
2つ目は、かかりつけ薬剤師指導や在宅業務など、地域包括ケアシステムの一員として薬剤師に求められる役割が変化したことから発生する、新たな業務の動機付けにしたいというニーズです。既存の人事制度では適合しなくなったことが理由に挙げられます。
3つ目は、世代交代による従業員の意識改革や組織風土の変更ニーズです。薬局業界も他業界と同様に世代交代の波が訪れており、そのタイミングに合わせて個人の意識や組織改革を進めたいという考え方です。
■コロナと現在のトレンド
コロナ禍によって調剤薬局の売り上げと利益は全体的に低下傾向にあるため、加算の取得を目指す薬局にとっては人事評価の導入ニーズが高まると予想されます。現在のトレンドは、エンゲージメントという言葉に代表される、会社側と従業員側の「双方のつながり」を意識した人事制度評価をつくっていくことが求められています。
薬局経営者 人事評価制度アンケート (2020年9月実施 n=32社)
■人事制度の目的は何か?
そもそも、人事制度を導入する目的は何でしょうか。当社では人事評価導入の目的は「従業員を育成し、パフォーマンスを向上させ、組織の目標達成をすること」と定義しています。もう少し具体的に言うと、以下の2点に集約されます。
<人事制度導入の目的>
(1)会社が評価したい人(会社が求める行動を取る人)がきちんと評価される
(2)評価が低かった人も、結果に納得して高い評価を得るために奮起してくれる
この2つを実現することが重要です。
ありがちな例として、公平な評価、社員の納得度の向上、賃金の抑制、社員のモチベーションアップなどを目的にする制度設計は失敗するケースが多いです。
■公平な評価項目など存在しない
「薬局は店舗ごとに状況が違うし、公平性を担保するのが難しい」と言う薬局経営者もいますが、店舗で状況が違うのは当たり前のことで、それを踏まえてどのような人事制度にするかが重要です。そもそも、全員が公平と感じる評価項目はありません。
公平性が必要なのは、評価項目ではなく、評価決定のプロセスです。評価項目の公平性を担保するのが納得性を高めるのではなく、評価のプロセスに公平性を出す(≒透明性を出す)ことが、従業員の納得感につながる重要な要素です。「どうなったら評価されるのか?」「どう評価されるのか?」について、明確化することが重要です。
■完璧な制度設計も存在しない
全員が納得するような完璧な制度設計をするのは、まず不可能だと認識してください。人事制度を導入する時に忘れてはならないのは、制度設計(仕組み)だけでは人事制度は成立しない、ということです。
不完全な「仕組み」を補完するために、導入後の「運用」をセットで考えることが重要です。運用についての具体的な取り組みとは、評価者に人事制度導入の目的を落とし込むことや、フローの可視化、面談スキル向上、フィードバックの仕方、改善点のチェックなどが挙げられます。人事評価制度の肝は運用です。これを理解せずに他社が使っている評価制度をまねただけの薬局経営者が多いため、ほとんどが失敗に終わります。
人事評価制度のイメージ図
■生き残る薬局が見るべき重要な評価ポイント
さて、人事評価制度の全体像が見えたところで、具体的な人事評価のポイントを整理します。
今後、薬局が地域で必要とされるためには、従業員一丸となって行動変容を進めていく必要があります。今までの評価制度では不十分になってくることもあるでしょう。言うまでもなく、門前の医療機関だけに頼る経営は難しくなっていきますし、処方箋だけを行っていればよいという経営も成り立たなくなってくるはずです。
こうした背景から、薬局が生き残るために必要になってくる人事評価では、業界特性を踏まえた項目を押さえる必要があるということです。特に薬局の収入源でもある診療報酬の流れを捉え、地域連携や非薬剤師との連携、かかりつけや在宅業務をどう評価していくかが重要かと思います。
また、成果や売り上げばかりの評価制度は拒否反応が起こりやすいため、医療従事者特有の感情に一定の配慮をすることも大事です。一般業界向けの既存の仕組みを流用するのではなく、「地域に必要とされる薬局とは何か?」という視点を主軸に、制度設計をすることをお勧めします。
今後、制度を導入する上で重要なポイント
■今回のまとめ
以上について、ポイントを整理します。
質問:人事評価制度の導入を検討しているが、どのような点に注意したらよいか?
回答:以下の3つの点に注意して制度の導入をするべきと考えます
(1)従業員のパフォーマンスを向上させる「組織の目標達成」を主眼に置く制度にする
(2)完璧な制度設計はない。「仕組み」と「運用」の両面で制度を考える
(3)業界特性を踏まえること。成果だけでなく医療従事者の感情に配慮する設計をする
いかがでしたでしょうか。導入時の注意点のため大枠の話になってしまいましたが、最低限、押さえておくべきポイントとしてぜひ覚えておいてください。
(文:株式会社CBコンサルティング 代表取締役 藤本進)
筆者プロフィール
藤本進(ふじもと・すすむ)
1979年東京生まれ。中央大学商学部経営学科卒業後、ベンチャー企業(通信OA機器販売会社)を経て、2007年に株式会社キャリアブレインに入社。東日本統括マネージャー、経営企画部で営業部門の教育担当を歴任。16年には、厚生労働省委託事業「介護分野における人材確保のための雇用管理推進事業」(中・四国ブロック)を受託。事務局長として、中・四国ブロックの人材定着のための調査を行い、普及活動を行う。17年に株式会社CBコンサルティング代表取締役就任。18年に株式会社CBナレッジ代表取締役に就任した後、20年より現職。
医療介護経営CBnewsマネジメント
【関連記事】