薬局が生き残るためにすべきことは?
「改定への対応」「採用」「M&A」でセミナー開催
中堅・中小薬局が生き残るために、絶対に知っておくべき3つのこと―。CBコンサルティングはこのほど、こうしたテーマで薬局の経営者や薬剤師らを対象にしたセミナーを福岡市で開催した。3つのこととは、「2018年度調剤報酬改定への対応」「薬剤師の採用」「薬局のM&A」だ。現場での経験が豊富な3人の講演者が、独自の視点で「薬局が生き残るためのヒント」を語った。
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第一部では、厚生労働行政を長年取材してきた設楽幸雄氏(薬粧流通タイムズ社)が「厳しい調剤報酬改定、生き残るための薬局の経営戦略」をテーマに講演を行った。
設楽氏は、特に薬価制度や健康保険制度、医療提供体制の取材や記事作成、編集などに携わり、さまざまな医薬系メディアで編集長を歴任。現在は医薬情報サイト「Web Medical」の編集などを担っている。
講演で設楽氏は、「かかりつけ薬剤師指導料」が16年度調剤報酬改定で新設され、多くの薬局がこの指導料を算定するために積極的に取り組んだため、「かかりつけ薬剤師一辺倒」という状況となったが、不適切な事例も明らかになり、批判の声が強まったことから、その対応が行われたのが18年度調剤報酬改定と説明。さらに、「大きな方向性が示された」との見解を示した。
設楽氏が言う「大きな方向性」とは、「かかりつけ薬剤師一辺倒」という流れから、薬剤師・薬局を地域包括ケアシステムの一員として位置付けようとする考え方だ。それが、「18年度調剤報酬改定のメッセージだ」という。
■地域支援体制加算の取得、「薬局としての存在価値が出る」
その象徴的な評価が、地域医療に貢献するための一定の体制を整えている薬局を評価する「地域支援体制加算」(35点)だと指摘する。現行の基準調剤加算(32点)を廃止する代わりに新設されるもので、調剤基本料2と3を算定する薬局が取得するには、患者への適切な薬学管理・服薬指導や一定時間以上の開局などに加え、地域医療への貢献度を示す「一定の実績」を積む必要がある。
「一定の実績」としては、1人当たりの常勤薬剤師が1年間で、▽夜間・休日等の対応400回▽重複投薬・相互作用等防止加算などの算定40回▽服用薬剤調整支援料の算定1回▽かかりつけ薬剤師指導料の算定40回▽外来服薬支援料の算定12回―など8項目をすべて満たさなければならない。設楽氏は、非常に厳しい基準だが、これを獲得することで今後の薬局としての存在価値が出てくると述べた。
■医療機関との連携の強化がカギ
この調剤報酬改定を踏まえ、薬局が目指すべきもう1つの戦略が、「病院や診療所との連携の強化をさらに進めることだ」と設楽氏は強調した。薬局と医療機関との連携によって、患者への重複投薬の防止など薬剤の適正使用が図られることへの評価が充実されるからだ。
その例として、設楽氏は今改定で新設される「服用薬剤調整支援料」(125点/月1回)を挙げる。この支援料では、薬剤総合評価調整管理料を算定する医療機関と連携した医薬品の適正使用に関する取り組みを評価する。6種類以上の内服薬が処方されていた患者について、薬剤師が文書を用いて処方医に提案し、その患者に調剤する内服薬が2種類以上減った場合に算定するものだ。
設楽氏は、「薬局が病院や診療所との連携を強化すれば、こうした点数(125点)を算定する機会が増える。それが地域包括ケアシステムとなる」と述べ、連携を積極的に強めるべきとの考えを示した。
また、特に調剤基本料2と3を算定する薬局に対して、厳しいものであるにしても地域支援体制加算を取得すべきだと主張。「地域医療への貢献実績に関する各項目への取り組みを進めることで、それぞれに点数を積み重ねることができる。その結果として、全8項目をクリアすれば35点が加算できる。ぜひ取っていくべきだ」とした。
一方、調剤基本料1を算定する薬局は地域医療への貢献実績8項目を満たさなくても同加算を算定できる。しかし設楽氏は、調剤基本料1を算定する薬局も地域医療への貢献の実績を積むことが重要で、そうしなければ同基本料2・3を算定し、地域支援体制加算の取得に必死の取り組みを見せると予想される大手の薬局から「引き離されるだろう」と警鐘を鳴らした。その上で、薬局が全体として地域包括ケアシステムの一員となることを目指すべきだと訴えた。
■薬剤師採用、対象者の細分化が「成功の第一歩」
第二部では、CBコンサルティング・営業本部第6グループの佐藤文洋マネージャーが「中小薬局が取るべき採用戦略と効率的な採用方法」をテーマに講演した。佐藤マネージャーは同社に入社後、人材採用を中心としたコンサルティング業務などに従事。採用や経営に関する課題を多く解決してきたほか、医療専門職を誘致するイベントを多数運営した実績がある。
佐藤マネージャーは、全国の薬局の店舗数は16年をピークに減少しており、「今後はM&Aの動きが活発化して再編がさらに進む」との見通しを示した。その上で、薬局業界での薬剤師の採用は、これまで「縁故」や「後継者」のケースが他の業界よりも多かったが、薬局業界の今後の再編を踏まえると、他の業界が用いるような手法で採用活動を行う必要があるとした。
■「誰に」「何を」「どう」伝えるかを明確に
薬局薬剤師の採用に当たり、まず行わなければならないのは、求職者を「細分化」することだと佐藤マネージャーは指摘する。具体的には、「誰に」「何を」「どのように」伝えるかを明確化することだ。
その次に行うのは、採用者のターゲットを絞ることで、その方法としては、例えば「明るい」「努力を継続できる」などの求める人材に関する「必須項目」を設定。さらに「物事に疑問を持てる」「自主性/リーダーシップがある」といった「要望項目」を設けることで、ターゲットが絞り込みやすくなるという。
佐藤マネージャーは、「採用では求職者の細分化が最も重要であり、成功の第一歩だ。細分化によって初めて、誰に、何を、どのように伝えるかが考えられる。ターゲットを絞ったら、それだけに力を集中すればいい」と述べた。
■ターゲットとPRポイントの明確化が奏功、新卒3人内定
佐藤マネージャーは、同社が人材採用を支援して新卒採用者の内定に至った薬局の事例を紹介した。山陰地方で6店舗を展開するこの薬局は、採用に苦戦し、過去4年ほど新卒を採用できなかった。
同社が支援をして採用活動を行ったのは、16年9月から17年9月まで。活動に当たり、この薬局が最初に取り組んだのが、「全国転勤が可能」「奨学金を早期に返済したい学生」「男子」といったターゲットの明確化だ。
この薬局が次に行ったのはターゲットに対するPRポイントの明確化で、「充実の奨学金返済支援」「年収500万円以上」「県外出身者が7割」などをアピールした。
さらに、平均の勤続年数・年収、男女比や地元の情報など、PRポイントを盛り込んだパンフレットを作成。これを使って薬学部のある大学などを訪問したり、ホームページで掲載したりして広報した。その結果、新卒の薬剤師3人の内定につながったという。
佐藤マネージャーは、「すべての人を採用することはできない」とし、採用の対象者をある程度切り捨てることも戦略だと強調。その上で、「できることからチャレンジしてほしい」と呼び掛けた。
■失敗例から学ぶ薬局M&A
第三部では、CBパートナーズの薬局事業部第3グループ(福岡支社)でM&Aアドバイザリーを担当する藤鉄兵スーパーバイザーが「失敗しやすいM&Aと代表者の特徴」をテーマに、具体的な事例を交えて講演した。
藤スーパーバイザーは、薬局のM&Aが積極的に行われていることを説明した上で、「関心の有無にかかわらず、M&Aは調剤薬局業界では避けて通れない事案だ」と指摘。さらに、成功することが重要だが、失敗しないことも重要だとの考えを示した。
今後、調剤報酬改定が実施されるたびに、薬局自体の収益や市場評価が低下すると藤スーパーバイザーは予想している。そのため、譲渡の最適なタイミングは「価額に限れば、早ければ早いほどいい」としたが、「焦って進めるべきではない」とも述べた。経営者が焦ってM&Aを進めたことによる「失敗例」を幾つも見てきたからだ。
■経営の経験と売買は「全く別」
藤スーパーバイザーは、仲介業者を通さずに直接交渉で譲渡を進めた結果、売り手が失敗した事例を紹介した。このケースでは、売り手の経営者の希望が通るように商談が順調に進んでいたため、本人は交渉自体、優位に進んでいると感じていたという。
金額や待遇などの条件が整い、残りは契約書を作成するのみだったので、その経営者は作成を買い手に依頼し、金額の条件に問題はなかったので締結。処方元の医療機関に譲渡を伝え、承諾を得た。
しかしその後、諸事情により今後の収支に影響が出そうな事案が発覚。買い手が作成した契約書を確認すると、今後の収益の影響などによっては「金額が変更できる」との文言が含まれていたことが分かった。処方元や従業員に対して既に告知していたので、エアコンなど機器の買い替え費も含めると、当初予定の価額の半分以下で譲渡せざるを得なかった。また、譲渡後に専門家に契約書を確認してもらったところ、売り手にとって一方的に不利な契約内容だったことも判明したという。
藤スーパーバイザーは、「今回の失敗の最大の原因は、契約書の作成を相手に任せたことと、その確認を十分に行わなかったこと。契約書の作成や譲渡に関する書類をそろえるのに、費用と手間をしっかりと掛けてほしい」と呼び掛けた。また、今回の売り手の経営者の特徴は「薬局経営に自信があり、顔の広いタイプ」というが、「薬局経営の経験と薬局の売買は全く別物と考えるべきだ」と藤スーパーバイザーは注意を促した。
■買った後に予想外の出費
藤スーパーバイザーは、買い手が失敗した事例も紹介した。このケースでは、直接持ち込まれたM&Aの話が「悪い話ではなかった」ことから、買い手は弁護士らに相談した上で、譲り受けることを決めた。
しかし、レセプトコンピューターが年間数十万円のライセンスを持っていないと使えないことや薬剤の分包機の故障、薬剤庫がほとんど使用できないことが譲り受けた後に発覚し、その対応で予想外の費用が掛かったという。
この予想外の出費の原因について、藤スーパーバイザーは「それぞれの機器やソフトの追加コストを譲渡前に把握できていなかったこと」と指摘。また、「設備などで気になることがあれば相手に聞くことが必要で、場合によっては第三者に依頼すべきだ」との考えを示した。
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