北の大地の北見に“小粒でもぴりり“とした有床診があった
地域密着、在宅復帰にこだわる白川整形外科内科
JR北海道石北本線の北見駅前の大雪大通りを、北東に約500メートル行った交差点。そこを右に曲がると、医療法人社団久仁会(北海道北見市、白川久統理事長)が運営する白川整形外科内科の3階建てのベージュ色の建物がある。近隣住民に、外来診療、リハビリテーション、さらには訪問看護なども提供している。ケアミックス病院顔負けの“小粒でもぴりりと辛い山椒”とでも言うような、患者の在宅復帰にこだわる19床の有床診療所だ。今、一緒に働く医師をはじめとするスタッフを募集している。白川整形外科内科は今後、訪問診療に注力する方針で、地域との密着度をさらに高めようとしている。
白川整形外科内科の入り口には、3つの理念が書かれたボードが掲げられ、▽常に患者様の立場に立った医療の提供を目指します▽いつも患者様に最適な医療ができるよう自らの向上に努め、また、必要に応じ速やかにほかの医療機関との連携を行います▽患者様も職員も笑顔で居られる癒しの場、憩いの場を目指しますーとある。白川整形外科内科の建物は築10年が経過しているが、古さを感じさせず、清潔さが保たれている。診療所内も病棟も土足厳禁で、待合室の真ん中には畳張りのスペースもあり、まさしく理念に盛り込んだ「憩いの場」になっている。
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ある平日の朝。8時の受付開始時間と同時に、1階の診察室前の待合室には順番を待つ人が並ぶ。1階フロアの半分以上を占めるリハビリテーション室は、ほぼいっぱいになる。リハビリ室には一日に100人程度が出入りしている。運動器などに障害を持つ外来、もしくは階上の病棟の入院患者が、理学療法士と作業療法士ら総勢9人のリハビリテーションスタッフから、在宅復帰後の元の生活を取り戻せるよう施術を受けている。
この診療所を院長として率いる白川理事長は2代目だ。北見市生まれで、旭川医大を1990年に卒業した整形外科医。地域住民の関節や筋肉など運動器の機能障害の診断や治療に取り組んでいる。自身は、医学生時代にラグビーに熱中、今はスポーツ医として、地域の子どもたちや現役のスポーツ選手のケガなどの治療にも当たっている。北見市は、トップリーグを含めた社会人ラグビーや大学ラグビーなどの夏の合宿地であり、ラグビーが盛んだ。このほか、カーリングの2018年韓国・平昌冬期五輪の女子日本代表には、同市常呂町のLS北見が選ばれたばかりだ。
白川理事長は、北見赤十字病院整形外科などで勤務、同病院では第一整形外科副部長として、下肢を中心に整形外科全般、外傷の診療に従事した。その後、旧・白川病院(60床)で、地域医療を支えていた先代の故・白川久成院長(第3代北見医師会長)の後を継ぎ、07年に今の場所に、白川整形外科内科として新築移転させた。
同市は北海道東部に位置し、人口約12万人でオホーツク圏最大の中核都市。全国の地域と同様に、高齢化の波が押し寄せている。国立社会保障・人口問題研究所の試算によると、北見市や網走市など2市8町の北網(ほくもう)医療圏の10年に30.3%だった高齢化率(人口のうちの65歳以上の割合)が25年には40.2%に、75歳以上の割合だと、10年の16.3%から24.9%へ、それぞれ上昇すると見込まれている。国が進める地域包括ケアシステムを実現するためには、白川整形外科内科のような、かかりつけとして地域住民に医療を提供する医療機関が必須になる。
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■理念に掲げた「患者様の立場に立った医療」の実践
白川整形外科内科は、患者の在宅復帰にこだわっている。これは理念に掲げた、「患者様の立場に立った医療」につながると信じているからだ。
診療報酬については、退院した患者の半数以上が在宅復帰することを評価する「在宅復帰機能強化加算」を算定。また、これまで19床のうち8床を介護療養病床にしていたが、同病床が廃止されることを踏まえて返上した。今年9月から、19床で「有床診療所療養病床入院基本料」を届け出ている。また、患者から夜間に電話があった場合、折り返しでも対応できることを評価する「時間外対応加算2」も算定。入院患者が円滑に在宅に戻れるよう14 年度診療報酬改定で新設された、患者の自宅などを訪問して退院後の住環境などを確認した上で、リハビリテーション総合実施計画を作成した場合に評価する「入院時訪問指導加算」も算定している。
白川理事長は毎週、北見赤十字病院整形外科の論文抄読会に参加するなどして関係を継続し、手術が必要な患者には同院の受診を勧めている。これは、理念の2つ目に掲げている「いつも患者様に最適な医療ができるよう自らの向上に努め、また、必要に応じ速やかにほかの医療機関との連携を行います」に通じるところだ。患者を抱え込まず、患者にとって最適な選択肢を提示することをモットーにしている。
久仁会は関連施設に、介護老人保健施設「いきいき」を持っていて、患者が自宅に戻るまでの中間施設として利用。地域の患者が「ときどき入院・入所、ほぼ在宅」を実現できる環境を整備している。白川整形外科内科から紹介を受けた患者が、北見赤十字病院に入院し、その後、在宅復帰に向けて老健「いきいき」に入所する例は珍しくない。「いきいき」も患者のことを考えて、その施設には露天風呂や、アルカリ性低張性低温泉pH9.5がわき出る浴室があり、神経痛や筋肉痛などに悩む患者の療養をサポートしている。
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■「職員も笑顔で居られる癒しの場」に
看護課長の尾崎円さんは、白川整形外科内科に入職して25年だ。北見市で生まれ育ち、高校卒業後に准看護師として仕事を始めた。先代の白川久成理事長の元でも働いた経験がある。尾崎さんが入職し、3年ほどが経ち仕事にも慣れてきた頃だった。当時、北見医師会長で、北見医師会看護専門学校の校長だった先代理事長の勧めで、同専門学校の昼間定時制に入学、働きながら勉強を続けて看護師になった。その時の学資は、白川整形外科内科の奨学金制度を利用した。今、尾崎さんは看護課長として、自身を含めた19人の看護部を取りまとめている。
尾崎さんはこれまで外来、病棟を担当してきたが、今は訪問看護を担当。訪問先には、先代からの患者もいる。さらに、外来受診する子どもが、その患者の孫だったりすることを知るたびに、白川整形外科内科は地元に密着しているなと感じるという。
白川整形外科内科の訪問看護事業所は12年6月の開設。全員が訪問看護経験“ゼロ”からのスタートだった。今では、患者の日常生活動作の維持・回復を図り、QOL(生活の質)を重視した在宅療養を続けることができるよう24時間体制を構築している。尾崎さんは訪問看護について、「一人で責任を持って介助ケアをしなくてはならないので、とても難しいのではないか」との先入観を持っていた。しかし、現場に行ってみると、病棟の仕事と何ら変わりがないことが分かったという。同事業所では、一人で患者宅などを訪問して、何でも背負い込んでしまわないよう緊急時の対処方法をマニュアル化したり、互いにサポートできるように配慮したりしている。
尾崎さんは、訪問看護の魅力について、「患者さんとじっくり向き合った看護ができること」だと言う。また、同事業所には、▽一人の人間として利用者様やご家族の思いに謙虚に耳を澄ませて心の声を聴こう▽自分の限界を見極めつつ相手に自分の価値観を押し付けることなく、柔軟な対応を心掛けようーといったスローガンを掲げている。
しかし、現在の訪問看護は、白川整形外科内科ではない、ほかの医療機関などからの依頼が中心だ。尾崎さんは「訪問するお宅で、『なぜ、白川整形外科内科の先生が来ないの』とお年寄りに聞かれると、ちょっぴり寂しい気がします」と心のうちを吐露する。
そこで白川整形外科内科は、訪問診療でリーダーシップを取ってくれる内科の医師を募集している。今、北見市ではない場所で働いている医師のほかに、同市出身でUターンを考えている医師には一度、久仁会を見学してみてほしいという。
■久仁会「患者様に選択肢を提供し、グループ利用してもらう」
白川整形外科内科では、国と同じように、働き方改革に取り組んでいる。白川理事長は、「なかなか実現は難しいのですが、職員全員が有給休暇を積極的に取得するという目標は下ろしません」と力を込める。
同法人では、職員のための寮や借り上げ住宅も用意。独身の職員の半分ほどが利用している。白川理事長は、「職員が同じ目標に向かって、業務をして達成することなどを通じて、ここで働いてよかったなという帰属意識を高めたい」と強調する。また白川整形外科内科では、「お互いさま」という風土が根付いている。出産や育児で勤務に支障が出てきたときは、皆で助け合っている。昨年初めて、男性の作業療法士が1カ月の育児休暇を取得した。
白川未緒法人本部長は、理事長の妻であり、久仁会の理事も務めている。
「私は、夫の目指す医療を実現させたいと思って、毎日業務に取り組んでいます。久仁会では診療所のほかに老健など複数の施設を持っているので、地域の患者さんに対しては、多様な選択肢を提供できると思っています。そして、白川整形外科内科の理念にも通じることですが、大事にしたいのは、職員がここで働くことに満足感や充実感を感じてもらうことです」とほほ笑みながら話した。
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