HITO病院、地域住民の社会インフラになる
CADA-BOXの診療情報共有化機能を活用
社会医療法人石川記念会(愛媛県四国中央市、石川賀代理事長)HITO病院(257床)は、メディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV、東京都千代田区、岩崎博之社長)が昨年10月にリリースした患者が自身の診療情報をインターネットで閲覧できる「カルテコ」と、医療費後払いサービス「CADA決済」を融合させた病院向けソリューション「CADA-BOX」の導入を決定。7月24日から、「カルテコ」のサービスを外来患者に提供し始めた。HITO病院が目指しているのは、社会インフラとしての病院機能の発揮だ。そのために医療者と患者が診療情報を共有化することは、HITO病院にとって必須だった。
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HITO病院は、旧県立三島病院の病床の一部104床を移譲され、2013年4月に再スタートした。愛媛県の最も東に位置し、香川県に隣接する宇摩医療圏で、前身の石川病院の時代から二次救急を担ってきた。一般病床が131床、HCUが10床ある一方、14年度の診療報酬改定で創設された地域包括ケア病棟が53床、緩和ケア病棟が13床、回復期リハビリテーション病棟が50床と、高度急性期医療を提供しながら、地域の後方病床もカバーするためにケアミックス型病院となっている。
HITO病院を陣頭指揮する石川記念会の石川理事長は、同病院の病院長、そして医師として日々の外来診療や病棟回診もしている。石川理事長は、石川病院からHITO病院へのリニューアルに合わせ、矢継ぎ早に施策を打ち出した。その目玉が「未来創出HITOプロジェクト」だ。そのプロジェクトには、業務の効率化などが盛り込まれ、ICTをヘルスケアに活用しようという取り組みもある。「HITO┃Bar」がその一つで、4月25日に外来総合カウンター横に開設された。
「HITO┃Bar」とは、バーという名前が示すように人が集まるカウンター。血圧計や血糖値測定器が設置されている。病院に来た人は、自分のデータを計測できるようになっているため、健康管理に役立てることができる。
石川理事長は以前から、地域住民が自分の健康情報などを把握・活用して意思決定する、いわゆるヘルスリテラシーの意識を高めることが大事だと考えていた。その方法として、患者が自身で健康データを測定、管理する仕組みを思い描いていたが、それが「HITO┃Bar」で実現した。HITO病院が地域住民の健康管理を支援する社会インフラとしての役割を発揮する場所になることを期待している。
「HITO┃Bar」を利用しているのは現在、インスリンを使って自己血糖測定をしている糖尿病患者が中心で、より簡易に血糖値を測定し、管理することができる。「HITO┃Bar」では将来、健診データも管理し、未病の領域にも介入しようと考えている。運動量・睡眠時間や睡眠パターンなどを管理し、生活習慣病にならないように健康指導をするなどして、地域住民の健康増進につなげるのだ。
石川理事長は、医療者と患者が診療情報を共有するメリットは大きいと考えている。共有することで、患者の理解が深まり、次回以降の診療で医師が、繰り返し同じ説明をしなくてよくなったりして、より密度の高い医療を提供できると見込んでいる。
「高齢の患者さんでもスマートフォン(スマホ)を持っているのは当たり前になってきました。インターネットやSNSなどを利用しています。実際、自分の病気のことを検索すれば、いろいろな情報を得ることができます。これまでは血液検査などの情報を、紙で渡していましたが、スマホを使って簡単に検査データなどを入手できれば、自分のデータをより身近にすることで、健康増進につなげることができると思っています」
石川理事長に、診療情報は誰のものかと聞くと、「血液データや画像診断などの診療情報は、基本的に患者さん本人のものだと思っています。私たち医師は専門的な立場から、それを利用して、よりよい診断や治療をするために診療情報を共有しているのです」と言う。石川理事長が、診療情報の共有化を推進しようと考えていたところ、MDVの「カルテコ」の存在を知り、「CADA-BOX」の導入を決めた。
しかし、HITO病院には医師が30人余りいて、患者と診療情報を共有することについて慎重な医師もいた。そこで石川理事長は、院内で多職種の部長会を開催し、診療情報の全面共有ではなく、部分的な共有にすることから始めた。
※インターネットサイト「カルテコ」により患者は、身体をイメージした「診療レポート」(左)のページを確認できる。そこでは、受診日や医療機関情報はもちろん、傷病名や処置・手術などのほか、検査結果や処方された薬剤の名称を把握することが可能。これらの診療・検査データを基に、ほかの医療機関でセカンド・オピニオンを聞くことができたりする。どのような薬剤が処方されているかが分かるため、重複投与やポリファーマシー(多剤処方)問題の解決にもつながる。
HITO病院に導入された「CADA-BOX」の「カルテコ」で現在、患者が閲覧できる診療情報は、(1)処方薬(2)注射(3)検査結果―の3つに限られている。このように情報を制限したのは、例えば傷病名の項目には、診断病名が掲載されるが、患者が複数の疾患を抱えているケースもあるほか、診断病名に関しては、主病名にするのか、副病名がある場合には、どれを入力すればいいのかなど、まだまだ詰める必要があったからだ。「カルテコ」は、このような部分的な閲覧にも対応できるように、システムに柔軟性を持たせている。「カルテコ」の申し込みや診療情報の印刷ができる専用端末「CADA-BOXステーション」は、「HITO┃Bar」のフロアの奥にあるサポートセンターの入り口横に設置されている。
■在宅復帰をチェックする在宅トリアージチーム編成へ
香川県との県境にあり、南部で徳島県と接している宇摩医療圏にあるHITO病院には、両県からの患者の流入もある。同医療圏外からの救急搬送の受け入れ要請があるほか、緩和ケア病棟などでも患者を受け入れている。HITO病院の救急医療は、脳卒中や心疾患に強みを持つ。旧病院から新たにHITO病院になるに当たっては、7対1一般病棟入院基本料を算定した。
愛媛県はすでに宇摩医療圏の地域医療構想をまとめており、回復期86床(14年7月1日)が、25年の必要病床数では、3.4倍となる294床になると見込んでいる。石川理事長は、「旧病院の頃から、脳卒中医療は40年近く提供しています。後方病床の少ないこの地域で脳卒中、心疾患にしっかりアプローチをして、救命率を上げ、さらには寝たきりを防ぐためには、術後のリハビリといった切れ目のないケアが必要になります」と説明する。
さらに、こう指摘する。
「これからは医療資源の投入時期が、もっともっと凝縮されると思います。今の高度急性期や急性期のどこが区切りになり、回復期、慢性期になるかが難しくなっていきます。急性期の病棟にも、回復期や慢性期の患者さんがいる可能性が出てきます。私の考えとしては、ゆくゆくは高度急性期と、ケア病棟のような回復期がセットになったりするのではないかと思っています。その中で、在院日数を短くし、できるだけ早く在宅に移行する体制が、団塊世代が後期高齢者になる25年を待たずに、この数年間の取り組みとして重要になります」
インタビューの中で石川理事長は、HITO病院は将来に向け、社会インフラとしての役割を果たしていきたいと何度も強調した。その役割の中でも大事なのが、病院で治療した後に、施設を含めて在宅に帰すことだ。そこで、石川理事長が年内にも始動させようというプロジェクトがある。
在宅トリアージチーム(仮称)の編成だ。病院スタッフが在宅を訪問し、退院した患者が、在宅療養に移行できているかをチェックするチームだ。施設に入って適切な医療が提供されているかを点検したり、自宅に帰ったならば、介護する家族の負担を軽くするレスパイトケアの意味で、再び病院や施設に戻したらいいのではないかなどと判断したりする。そのチームのスタッフは、医師、看護師だけでなく、薬剤師や歯科衛生士のほか、栄養士などで構成することを想定している。
石川理事長は、「患者さんを在宅に移行させるために、かかりつけ医の先生方にお返しするのですが、病院からかかりつけ医の先生方へのつなぎが足らないと思っています。そこで、これまで病院でケアしていたスタッフが、患者さんが在宅復帰した2週間をめどに訪問して、適切な在宅復帰の状態かどうかを確認します」と言う。HITO病院では、在宅トリアージチームの編成に向けて、病院スタッフが在宅に出て行くための教育も始める考えだ。
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