商店街会長の薬剤師が目指す「健康サポート薬局」
日本医薬の石原孝一社長
東京・渋谷と神奈川・横浜をつなぐ東急電鉄東横線の白楽駅の出口から始まる六角橋商店街。昔ながらの小さな店舗が建ち並ぶ中で、ひときわ大きなビルの1階に、日本医薬株式会社(横浜市)が運営する陽月堂薬局がある。
日本医薬の石原孝一社長は、六角橋商店街の会長も務めている。商店街会長として、この地域住民の将来について熟慮の末、かかりつけ薬剤師機能を発揮する健康サポート薬局になる道を選んだ。
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■時代の変化を感じ、「医療モール」への転換を決断
陽月堂薬局が1階にある6階建ての「白楽メディカルセンター」ビルは、内科、小児科、耳鼻咽喉科・アレルギー科、産婦人科、歯科といった診療科が異なる複数のクリニックが集まる医療モールだ。日本医薬は、陽月堂薬局以外にも、歩いて3分程度の所にある西神奈川薬局を運営している。その薬局の店舗のあるビルも医療モールで、整形外科、眼科、腎臓内科(人工透析)のクリニックが開業している。
石原社長は3代目。1930年(昭和5年)に、祖父がこの地に開業。戦後、法人化し有限会社 石原薬局として営業していた。その後、1989年に石原社長が30歳になった時に経営を引き継ぎ、調剤薬局併設型のドラッグストアにした。
駅前の商店街は、時代の変化を敏感に映し出す。郊外の大型スーパーや主要駅などに客を奪われていった。典型的な下町の六角橋商店街も例外ではなく、店舗は少なくなっていき、“歯抜け”状態になっていった。人の行き来を見ながら石原社長は、薬局の行く末を案じ、大きな決断が必要だと感じていた。石原社長は、これからの社会では高齢者が駅前に集まると予想して、医療モールへの転換を決めた。2007年、ドラッグストアのために賃借していた店舗の土地を取得、医療モールのためのビル建設の検討を始めた。
石原社長は、こう話す。
「高齢化が進んで人口が減っていくと日本の場合、人口は駅前に集中してくるのではないかと考えたのです。病院などの医療機関の前に店舗を移して、門前薬局にする選択肢もありますが、医療モールにすれば、処方せんの集中率が上がってしまうことも気にしなくてもいいですし、何より地域住民の利便性が高まると判断しました」
陽月堂薬局は、在宅医療もしている。無菌調剤室(クリーンベンチ)の設備もあり、近隣の医療機関から頼られる薬局だ。
「白楽メディカルセンター」ビルは、08年に着工、翌年に竣工した。ビル開業当時から、朝日内科クリニック(飯塚孝院長)が2階に入居している。同クリニックは以前、同じ白楽駅の線路の向こう側のビルの3階で開業していたが、そのビルにはエレベーターがなく、高齢の患者が階段を上れなくなったため、「白楽メディカルセンター」ビルに移転してきた。
「白楽メディカルセンター」ビルでは今年5月、小児科のクリニックが新たに開業した。医療モールで開業する医師と石原社長は、顔見知りだ。医師がビルに入居する前には、必ず面談の機会を設けている。医師らとは年1回、一堂に会して打ち合わせと称した食事会を開催する。石原社長は、「医療制度のことや、最近の患者さんの傾向など、テーマは多岐にわたる」と話す。
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■演劇で培ったプロデュース力が、六角橋商店街の「ヤミ市」に
石原社長は、東京理科大薬学部を卒業し、薬剤師になった。ほとんど就職活動をせず、東京・文京区湯島の小さな薬局に勤務した。石原社長は当時、薬局経営にまったく興味がなかったという。社会人になっても、大学在学中に熱中した演劇を続けていた。大手企業が東京都内で開催した大掛かりなイベントにも関わった。
六角橋商店街が月1回開催する「ヤミ市」は若者を中心に有名だ。フリーマーケットやパフォーマンスなど、何でもありのイベントだ。六角橋商店街も、全国のほかの商店街と同様に、いっときはシャッター通りになりかけたが、「ヤミ市」により活気を取り戻した。石原社長は、「ヤミ市」の企画の段階から参画していた。大学時代から社会人になっても続けていた演劇のプロデュース力が役に立った。
今、石原社長が薬局経営者かつ、商店街会長として取り組んでいるのが、認知症の高齢者が安心して暮らせる街づくりに向け、横浜市神奈川区と取り組んでいる「見守り協力店」登録制度だ。区内の店舗や事業所を対象に認定するものだ。
その認定を受けたら、認知症やその家族が困っているときに、「温かい声掛け」や見守りができるという、一種のブランディングだ。六角橋商店街では9月末現在で、商店街の3分の1程度の店舗に当たる58店舗が「見守り協力店」に認定されている。
また、六角橋商店街は、「オレンジプロジェクト・お年寄りにやさしい街、六角橋」というキャンペーンを前面に打ち出している。今年9月には、商店街で認知症に関する映画の上映、認知症体操教室、介護食食堂の開店など、さまざまなイベントを開催した。この一連のイベントでも、石原社長は、かつて演劇でならしたプロデューサー魂に火が付いた。
■健康サポート薬局で六角橋商店街盛り上げたい人を大募集
石原社長が商店街を含めて地域振興にこだわるのは、イベントや企画の運営が好きだからだけではない。地域には、住民に対して親身になって健康相談などをしたりする、かかりつけ薬剤師のいる“場”として、薬局がいつまでも必要であるとの考え方が底流にあるからだ。そして、地域で薬局として生き残っていくには、住民から必要とされる薬局にならなくてはならないと考えているためだ。
石原社長が、これから注力するのが、地域住民に対して、かかりつけ薬剤師機能を発揮することだ。現在、健康サポート薬局になれるよう準備を進めている。すでに自身で、健康サポート薬局になるために必要な、指定機関での研修を修了している。
一方、薬剤師の働き方改革にも力を入れている。AI(人工知能)を活用した音声認識薬歴作成支援システムを導入した。薬剤師の業務で、薬剤服用歴(薬歴)の記載は必須だが、このような事務的な負担が、薬剤師の過重労働につながっているため、業務負担の軽減にも取り組んでいる。
陽月堂薬局には11人、西神奈川薬局には7人、それぞれ薬剤師がいる。両薬局では、県紹介による薬学部5年の実習生を受け入れている。石原社長は、実習生を受け入れることで、薬剤師の卵たちに地域に密着した薬局で働くことの楽しさや、働きがいなどを伝えようとしている。
日本医薬では、健康サポート薬局になるために、一緒に働く薬剤師を含めたスタッフを募集している。石原社長は、陽月堂薬局と西神奈川薬局に関心があり、さらに地域を盛り上げたい人がいれば、ぜひとも訪ねてほしいと言う。そして、最後にこう付け加えた。
「健康サポート薬局を目指しているので、地域活動など、仕事以外で地域の人と関わることが増えていきます。地域に貢献することに抵抗感がない人、街づくりに興味がある人、それらをライフワークにすることができる人に来てほしいですね」
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