患者と診療情報共有し、医療・介護が地域とつながる
恵寿総合病院、MDVの「CADA-BOX」導入
社会医療法人財団董仙会(石川県七尾市、神野正博理事長)が運営する恵寿総合病院(426床)は、メディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV、東京都千代田区、岩崎博之社長)が開発した、患者と診療情報を共有する「カルテコ」の機能などを持つ病院向けソリューション「CADA-BOX」を導入。2階の外来カウンターの横に9月4日、「カルテコ」の申し込みや診療情報の印刷ができる専用端末「CADA-BOXステーション」を設置した。同病院では1年間で、1日の外来患者約800人の半分程度が、カルテコを利用すると見込んでいる。
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神野理事長は「カルテコにより、診療情報を患者さんにお返しします。これは、未病や健康維持のためだけではありません。例えば、がんの患者さんなら、腫瘍マーカーがどうなっていくかなどを共有したり、とてもつらい抗がん剤治療をしたとして、データがよくなったことを互いに確認したりすれば、その後も治療を継続しようということにもなるかもしれません。これからは参加型の医療の時代になると思っています」と話した。
また、「カルテコにより、医療・介護は、患者や施設などの利用者を含めた住民の生活の場である地域につながることが可能になる」としている。ICT(情報通信技術)による医療現場の改革は、神野理事長の真骨頂だ。医療機関の医療資材の在庫や受発注を総合的に管理するSPDシステムを1994年に、病院で初めて導入。統合電子カルテシステムなどにより、能登半島で先端医療から福祉までを担う、介護、福祉、保健の複合体グループ「けいじゅヘルスケアシステム」をつくり上げた。
神野理事長の次の目標は、パーソナルヘルスレコード(PHR=Personal Health Records)で、医療・介護を地域につなげて、地域を変えることだ。カルテコは、それに向けた最適なツールと考えた。
※ インターネットサイト「カルテコ」により患者は、身体をイメージした「診療レポート」(左)のページを確認できる。そこでは、受診日や医療機関情報はもちろん、傷病名や処置・手術などのほか、検査結果や処方された薬剤の名称を把握することが可能。これらの診療・検査データを基に、ほかの医療機関でセカンド・オピニオンを聞くことができたりする。どのような薬剤が処方されているかが分かるため、重複投与やポリファーマシー(多剤処方)問題の解決にもつながる。
神野理事長は、3代目。スピード感のある経営手法は、父である正一・前理事長譲りだ。前理事長は、恵寿総合病院の前身である、神野病院が1964年5月に厚生省(当時)令で救急病院の指定を受けると、同年9月には救急病棟を新築。ベンツ社製の救急車を購入した。ベンツ社製の救急車は日本第一号だったという。
その頃、救急車のサイレンは消防車と同じ、「ウー・ウー」という火災サイレンだったが、神野病院の救急車は、今も使われている「ピーポー・ピーポー」というミュージックサイレンだった。七尾の街にそのサイレンが鳴り響いたのも、日本初ということになる。
恵寿総合病院には、屋上にヘリポートがあり、防災ヘリも受け入れている。一般病床282床にHCU10床のほか、回復期リハビリテーション病棟47床、地域包括ケア病棟47床、障害者病棟40床となっており、高度急性期から回復期などの複数の病棟を持つ、いわゆるケアミックス病院。県内には、能登北部、能登中部、石川中央、南加賀の4つの二次医療圏があり、同病院は能登中部に位置し、基幹病院としての役割を担っている。
厚生労働省の病床機能報告制度で石川県は、2014年7月時点で、高度急性期2218床、急性期6878床だが、団塊世代が後期高齢者になる25年の必要病床数は、それぞれ1226床、3929床と減少する一方、回復期が3695床(14年7月時点1022床)、慢性期が3050床(同5167床)となり、回復期の需要が拡大する。また、施設を含めた在宅医療等が1万8604 人(同1万810人)にまで増えるとの試算を示している。
ケアミックスの恵寿総合病院や診療所のほか、金沢市内に14年7月、NTT西日本から事業譲渡された恵寿金沢病院(旧NTT西日本金沢病院、89床)、さらにグループで介護・福祉施設を持ち、高齢社会に向けた準備を進めている董仙会だが、神野理事長は先行きを楽観はしてはいない。
地域の人口減少で25年の先には、医療需要の急激な減少が待ち受けているからだ。さらに、地域住民が住所地と異なる二次医療圏に流出することへの対応も怠れない。能登中部医療圏の医療者らは、「ストップ・ザ・金沢」を合言葉に以前から、地域住民は、その地域で診られるようにと、医療の質向上に尽力している。
13年のデータによると、恵寿総合病院のある能登中部医療圏には、能登北部医療圏から1割弱の患者が流入してきている。一方、能登中部医療圏から、金沢大附属病院などのある石川中央医療圏に15%程度の患者が流出している。そこで、神野理事長が打ち出したのがMDVの「カルテコ」による、患者との診療情報の共有化だ。これは病院医療と地域をつなごうという試みだが、神野理事長は、「PHRによる地域改革の小さな一歩だ」と話す。
■頼る「自助」から覚悟の「自助」の時代へ
中央社会保険医療協議会の「入院医療等の調査・評価分科会」など、国の検討会の委員を複数務める神野理事長は、外科医として恵寿総合病院で外来診療などを続けながら、週に数回は厚労省などの会合に出席するために東京に出向いている。医療の将来を議論する最前線にいるだけに、神野理事長はこの国の医療の行く末に不安を隠せない。
恵寿総合病院が9月4日に開いた、「カルテコ」の導入を発表する記者会見でも、この国の社会保障財源が厳しいことや、人口減と少子高齢化により、地域コミュニティーが崩壊の危機に直面していることを、フリップを使って説明し、国が推し進める地域包括ケアシステムが効果的に機能するには、「自助」「互助」「共助」「公助」の基本的な考え方と関係性を理解することが必要と強調した。
その上で、自分で自分を助ける「自助」については、病院など、すべて人に「頼る」自助ではなく、自らの健康に注意を払い、健診を受けたり、介護予防活動に取り組んだり、自発的に自身の生活の課題を解決し、自分のことは自分で管理するという、「覚悟」する自助の時代が来るという。
神野理事長は、医療や介護はこれからもっと、生活の場を支援する役割が重要になると考えている。この考え方を神野理事長は、「地域包括“ヘルス”ケアシステム」と呼んでいる。そこでも、カルテコが強みを発揮すると、神野理事長は期待している。
神野理事長は、地域住民は自宅で測った血圧や体重なども管理する必要があると言う。「カルテコの導入がきっかけとなり、医療・介護と、生活の情報がつながっていくなら、もっといろいろなことが可能になります。生活の情報とつながることは、地域とつながることと同じ。地域振興や街づくりにもわれわれ医療が、安心というキーワードで貢献できます」とし、PHRを活用した「地域包括“ヘルス”ケアシステム」の将来像を描き始めている。
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